「ムトス」と自治基本条例

飯田市視察報告⑤

 今回の視察の最後のテーマは「議会が制定した自治基本条例について学ぶ」です。議会事務局で迎え入れてくれたのは、先ほど「風の学舎」でお会いした中島武津雄議長と事務局の久保敷さんです。飯田市議会では、この6月の臨時議会で立候補による議長選挙が初めておこなわれ、中島さんは「議会としての責務を果たしたい」と訴えて議長に選ばれたのだそうです。

 飯田市の自治基本条例策定へのスタートは平成14年にあります。地方分権一括法の制定により地方分権・自立が言われましたが、一方で景気の後退による民間企業のリストラも続く中、市民からは「議会・議員は何をしているのか!」の声があり、「議会の在り方研究会」を設置、議会の役割をチェック機関にとどまらず、政策立案機関にするための検討を重ね、「議会議案検討委員会」を設置しました。その中で、まず「まちの憲法」である自治基本条例を市民参加で、ということで平成15年から4年をかけた条例作りはスタートしました。
 飯田市議会の取り組みは全国で初めてが沢山あります。まず、議会が制定した自治基本条例は全国で初めて、そのために議会が設置した市民会議も初めて、大学の先生など専門家と言われる人が全く入らずに自分たちで条文作りもしたのもおそらく例がないでしょう。
 自治基本条例へのプロセスも、自分たちのこれまでの自治会などのあり方を再認識し、その上で足りないものを付け加えていく、という考え方ですすめられ、それは、昨年、水俣市で学んだ地元学の「いいものさがし」に近いものを感じました。中島議長の言葉からは「自分たちはここで生きていくのだから」という覚悟のようなものが伝わり、そのために是非必要な条例、という必然性を強く感じました。ですから、条文の一つ一つから想いが伝わってきます。その一つの例として議会事務局の役割については議会事務局の職員に書いてもらったのだそうですが、「・・・全力をあげて市議会の活動を補佐します。」と表現されており、それに触発された市の職員も「全体の奉仕者として・・・全力をあげて職務を遂行します。」と表したといいます。
 平成18年9月に制定されたこの自治基本条例は、「市民主体の原則」「情報共有の原則」「参加協働の原則」の3原則に基づいており、議会は制定後の検証も市民とともに進めていくとして、昨年から議会報告会も開催しています。中島議長は「まずは、議員自らが変わること」そのことで行政が変わり、市民が変わると結ばれました。

 この2日間の飯田市で感じたことは、「自らのまちを作るのは自分たちでしかない」という覚悟のようなものでした。それを自治というのかもしれませんが、飯田で聞いた「ムとす」という、心得書きの文章の締めに使われる表現に込められた決意の重さこそ、自治を作るものなのだと感じました。そんな意味では、飯田でお会いしたすべての皆さんの「ムとす」を実感した視察でした。
*ネットでは今後、飯田市視察報告会を予定しています。是非飯田の話を聞きに来てください。